大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和41年(オ)648号 判決

上告人

森政雄

代理人

佐藤光将

真野毅

山口信夫

鈴木富七郎

被上告人

森利雄

代理人

金原藤一

山本七治

亀井忠夫

被上告人

森慎一

代理人

原田昇

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人佐藤光将の上告理由第一点について。

記録によれば、本訴は、被上告人両名が原告となり上告人を被告として、三者間の共有に属する本件土地建物の分割を請求する訴であるが、第一審においては、弁護士米村嘉一郎が被上告人両名の訴訟代理人となつて訴訟が追行され、原審においては、弁護士米村嘉一郎、同金原藤一、同福井秋三が被上告人両名の訴訟代理人として、また、弁護士山本七治がその訴訟復代理人として訴訟が追行され、原審における審理の途中において、弁護士金原、同福井は、被上告人森慎一の訴訟代理人を辞任し、弁護士原田昇が被上告人森慎一の訴訟代理人に選任されている。しかし、上告人はもとより被上告人森慎一、同森利雄らが、第一審または原審において、この点について異議を述べた形跡は本件記録上はこれをうかがうことはできない。したがつて、前記弁護士らの訴訟行為が弁護士法の禁止規定に違反するか否かはともかくとして、第二審の口頭弁論終結後の現在においては、もはや、そのことを理由として、当該訴訟行為の無効を主張することは許されないものというべきである(最高裁判所昭和三五年(オ)第九二四号同三八年一〇月三〇日大法廷判決、民集一七巻九号一二六六頁参照)。論旨は理由がない。

同第二点の一および二について。

記録によれば、被上告人らは、原審第三二回口頭弁論期日において、昭和四〇年七月七日付訴変更の申立書に基づいて陳述し、原判決物件目録(四)掲記の建物についても分割を求める旨訴の変更申立をしたが、上告人は、右訴の変更に対して異議を述べたものである。そこで、右訴の変更によつて請求の基礎に変更を生じるかどうかを検討するに、記録によれば、本訴は、第一審以来被上告人らにおいて上告人に対して、右三名の兄弟が永年間にわたり相協力して逐次取得した数個の共有物たる不動産について、これを一団として分割することを請求しているものであり、分割の対象の増減によつて、分割の方法も異なり、もとの対象物に対する分割方法にも影響を及ぼさざるをえない関係にあるものであるから、このような場合は、前掲記のごとく訴を追加的に変更しても、基本的な事実関係を同じくするものとして、請求の基礎に変更ない場合にあたると解すべきである。したがつて、本件訴の変更によつて請求の基礎に変更を生じないとした原審の判断は正当である。

同第二点の三および四について。

控訴審において追加的訴の変更がなされても、請求の基礎に変更がない場合には、その部分について第一審の審理がなされているから、相手方の審級の利益を失わしめるものではない(最高裁判所昭和二八年(オ)第一〇六一号同二九年二月二六日第二小法廷判決、民集八巻二号六三〇頁参照)。被上告人らが原審でした訴の追加的変更は請求の基礎に変更がない場合にあたることは前段説示のとおりであるから、右の訴の変更によつて、上告人の審級の利益を失わしめるものということはできない。また、訴の変更により請求を追加的に併合した部分については、右訴の変更がなされた後においては、甲第一六号証、乙第二七ないし第三五号証があらたな証拠として提出されてはいるが、追加された請求部分のみに関する人証の取調はなされておらず、かつ訴変更の申立は、原審第三二回口頭弁論期日においてなされ、第三八回口頭弁論が終結されているのである。このような審理の経過にかんがみるときは、原審が、本件訴の変更により著しく訴訟手続を遅滞するものとは認められないとした判断は正当であり、原判決には所論の違法はなく、論旨は理由がない。

同第二点の五について。

記録によれば、被上告人両名の訴訟代理人に対するそれぞれの委任状には本件のごとき訴の追加的変更についての特別の委任事項の記載はみられない。しかし、本件訴の追加的変更が請求の基礎を同じくするものであることは前掲説示のとおりであり、このような場合には、委任者たる当事者において、現に提起されている訴以外に訴の追加的変更を許さない意思であるとする特段の事情でも存しないかぎり、委任者は、同一の事実関係に基因する紛争を有利に解決するため可能なかぎりの請求を追加的に併合し訴の変更をすることをも委任しているものと解すべきであり、被上告人らがその訴訟代理人に本件訴の変更に関する訴訟行為を委任しない意思であると認められる特段の事情もうかがわれない本件においては、被上告人らはその訴訟代理人に対し本件訴の変更に関する一切の訴訟行為をも委任したものと解すべきである。したがつて、これと異なる見解に立つて原判決を攻撃する論旨は理由がない。

同第三点の一ないし三について。

記録によれば、本訴は、被上告人両名より提起された原判決別紙物件目録(一)記載の土地一筆ならびに同目録(二)ないし(四)記載の建物三棟を対象とした共有物分割の訴であるところ、原審は、分割の方法として現物分割の方法により、原判決別紙分割目録記載のとおり右(一)記載の土地を三分割し、右(二)ないし(四)記載の建物については(二)の建物を被上告人森利雄の、(三)の建物を被上告人森慎一の、(四)の建物を上告人のそれぞれ単独所有とする旨の分割を命じたものである。

ところで、民法二五八条によつてなされる共有物のいわゆる現物分割は、本来は各個の共有物についての分割方法をいうものと解すべきであるが、数個の物であつても、たとえば、数個の建物が一筆の土地の上に建てられており外形上一団の建物とみられるときは、そのような数個の共有物を一括して、共有者がそれぞれその各個の物の単独所有権を取得する方法により分割することも現物分割の方法として許されるものと解するのを相当とする。そうだとすれば、本件分割の対象は、一筆の土地およびその地上に存在する三棟の建物であるところ、原審の確定した事実によれば、右は、三個の建物ではあるが、右一筆の土地上に互に相密接して建設された一群の建物であり、外形上一団の建物とみられるものであるから、このような数個の建物は一括して分割の対象とすることを妨げないものというべきである。したがつて、原判示のごとく、右建物を上告人および被上告人らの各単独所有とする分割は現物分割の方法として許されるものであり、これと結論を同じくする原判決は、その結論において正当であり、論旨は理由がない。

同第三点の四および五について。

所論は、要するに、本件分割により被上告人慎一が取得した財産の価額が同人の持分である三分の一の価額より多額である以上、持分の放棄として、取得分と持分との差額を放棄することは不可能であるとし、持分額以上の取得額を認定した原審の判断の誤りを主張するものである。そして、原審が認定した財産価額によると、被上告人慎一が分割により取得した財産の価額が分割の対象とされた全財産の三分の一の価額より多額であることは論旨の指摘するとおりである。しかし、原審の認定によれば、被上告人利雄もその持分三分の一と分割を求める自己取得分との差額を放棄しているのであるから、その放棄された持分は平等の割合で被上告人慎一と上告人に帰属し、被上告人慎一は、かくて増加した持分より本訴において主張している取得分との差額を放棄したものとされているのであるから、原審の判断にその主張のごとき違法はない。また、被上告人利雄について持分放棄の主張が許されないとする根拠はなく、論旨はすべて理由がない。

同第三点の六について。

原判決は、本件目的物について現物分割が可能であるから現物分割をする旨判示しているのであつて、売却して売却金を分けることは一そう不利である旨の原判示は余論にすぎず、論旨は右余論を攻撃するものであつて、採用できない。

同第四、第五および第七点について。

原判決は、本件土地、建物が上告人および被上告人両名の共有に属するものである旨判断し、その理由として大要次のように述べている。すなわち、上告人および被上告人両名は兄弟の間柄にあるところ、三名は、戦前より家業であるミシン加工業に相互に協力して従事し、戦災を受けた後は、家業の再興発展をはかるべく相互に密接に連絡し協力し合い、それまでに蓄積した財産を基にし、被上告人利雄が家督相続によつてえた有形無形の財産をも利用して本件土地の借地権を取得し、その地上に建坪一二坪五合のバラック造りのいわゆる第一建物を建築し、家業たるミシン加工業を再開し、それによる利益を主として右第一建物に約一五坪の建増(いわゆる第二建物)をし、さらに、本件土地の所有権を取得し、第一、第二建物を改築して貸室のある建物(原判決別紙物件目録(三)記載の建物から二階五坪を除いたもの)として、右貸室利用による賃料と家業による収益とを主として右土地代金の支払をなし、かつ、右第一、第二建物に接して同物件目録(二)記載の建物を新築し、第一、第二建物の上に中二階の五坪の建物(作業所)を増築した(この新、増築にかかる建物をあわせていわゆる第三建物という。)。ついで、第一、第二建物の敷金および貸室料を基礎とし、かつ、できあがつた建物の貸室料をあてにして同物件目録(四)記載の建物を建築した。このように、上告人、被上告人らが右各財産を取得した目的は、家業たるミシン加工業の隆盛をはかり、かつ、家族のすまいの確保および共同事業の繁栄に資するためであつたとし、このように、上告人および被上告人らが相協力して営んだ事業による収益を基にして、共同生活および共同事業の目的に資するため取得した物件は、その所有名義をいかにしたかは問わず、上告人および被上告人らの共有に属するものと認めるのが相当である、とする。

そして、原審の右に確定した事実関係は、挙示の証拠関係に照らして正当としてこれを肯認することができ、その判断の過程に条理ならびに経験則違反、審理不尽、理由齟齬など所論のような違法はない。

そして、原判決は、その表現においていささか適切を欠くきらいがあるとはいえ、その説示の全体をつうじてみれば、上告人および被上告人両名が家業の発展をはかるべく相協力することにより暗黙裡に本件土地建物を三名の共有とする旨の合意が成立していたものであり、右合意により、本件土地建物が三名の共有となつた旨認定判断しているものと解することができる。したがつて、原判決は、所論のごとく上告人、被上告人らの間に組合契約が成立した事実を認定しているものではないのであるし、また、原判決は、所論のように本件不動産が上告人および被上告人らの相協力して営む共同事業の目的に資するため取得した物件である旨判示はするが、右は、三者間においてその取得する財産を共有とする旨の合意が成立し、本件不動産がその合意に基づいて取得された財産であるゆえんを説示しているにすぎず、右説示ならびに原判決のその他の説示から、原判決が所論のような組合契約または組合類似の契約の成立を認定しているものと解すべきではない。したがつて、右契約の成立を前提とする所論は、原審の確定しない事実関係を前提とするものであつて、採用することができない。したがつて、原判決には所論の違法はなく、論旨は理由がない。

同第六点について。

所論は、被上告人らの持分の一部放棄を認定した原審の認定判断が弁論主義に違反する旨主張するものである。しかし、右持分の放棄が認定されないとすれば、結局上告人の取得分はそれだけ減少する結論となるわけであつて、所論は、結局上告人のために不利益な主張であつて、適法な上告理由として採用することができない。

同第八点について。

所論は、原判決に採証法則違背、自由心証の範囲を逸脱した違法があると主張するのみで具体的な事実についての主張がなく、採用することができない。

よつて、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。(草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例